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橋本努編『現代の経済思想』

 

勁草書房、201410月刊行、640

ごあいさつ

 


謹啓

 

深秋の候、皆様におかれましては、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚くお礼申し上げます。

東日本大震災からはや三年半が過ぎ、日本社会はしだいに平常を取り戻しつつありますが、この時期になって原発の再稼働へ向けた政治的な動きがあり、社会は再び同じようなあやまちを繰り返すのではないかという不安に駆られます。なかば諦めと、なかば絶望から、複雑な気持ちを抱えてしまうのは私だけでしょうか。

現代社会は、ますます先行きが不透明になってきたようにみえます。別の見方をすれば、どんな制度でも「あり」になってきたようにみえます。ですが私たちが本当に目指すべきよい社会とはどんなものでしょう。あるいは私たちが生きるための指針とはどんなものでしょう。「資本主義」批判や「近代」批判、あるいは「ポストモダン消費社会」に対する批判が一巡した現在、こうした根本的な問題があらためて問われているように思われます。

このたび、編著『現代の経済思想』を上梓いたしました。根本的な諸問題に対して執筆者一同、ストレートに向き合っております。たんなる最新の議論の紹介ではなく、本質的な問いを真摯に探究しています。皆様のご高配を賜りたく、お願い申し上げる次第です。

本書は編著ではありますが、私には特別な思い入れがあります。もし能力さえがあれば、すべての章の内容を自分自身で書きたいと思うほどに、それぞれの課題に関心を傾倒させてきたからです。本書が装丁のデザインに象徴されるような、新鮮なザクロの粒が詰まった濃密な内容に仕上がっているかどうか、ご批判を賜ることができれば幸いです。

 現代経済思想の研究は、いまだかつて確立された分野ではありませんが、これまで例えば、G.M.ホジソンの『現代制度派経済学宣言』(名古屋大学出版会、1997年)によって、主流派経済学の根幹(方法論)を批判する諸説を整理するかたちでイメージされました。あるいは、マリル・ハート・マッカーティ著『ノーベル賞経済学者に学ぶ 現代経済思想』(日経BP社、2002年)によって、ノーベル経済学賞の知的エッセンスを整理するという、アイディア集のかたちでイメージされました。ですが本書はこれらの方針とは異なり、経済の本質に関する探究が、経済学を超えたさまざまな分野でゲリラ的に創造されているとの理解に立ち、思想そのものがもつ探究の魅力とその本義に立ち返っています。皆様のご関心を乞うことができますと幸甚です。

 最後になりましたが、皆様のご健康を、心よりお祈り申し上げます。

 

謹白

201410

橋本努